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Journal #41

ゆるやかに生活を変えていくもの MUTE  イトウケンジ氏  ウミノタカヒロ氏

2017.03 Photography & Text: 加藤 孝司

イトウケンジさんとウミノタカヒロさんによるMUTEは、プロダクトやグラフィック、
空間などのデザインからディレクションまでを手がけるデザインユニット。
彼らが手がけるものは、誰も見たことのないかたちではなく、
生活のなかにあって最初からそこにあったかのような、特別な存在感をもっている。
穏やかななかにも緊張感のある2人のアトリエで、
ものづくりからデザインへの向き合い方までお話をうかがった。

── お二人の出会いから教えてください。

イトウ:それぞれの経歴では大学や短大などの経歴はあるのですが、出会いは桑沢デザイン研究所のプロダクトデザインコースでした。そこで2年間学生生活を共にしたのち、2人とも同じ空間設計の会社に入社しました。それで気も合う仲でしたので、会社を辞めてから一緒にMUTEを立ち上げました。

ウミノ:そうでしたね。2人ともデザインの勉強をしていて、空間設計の会社に入ったのですが、やっぱり物をつくりたい、という思いがどんどん強くなってきました。どうせ同じタイミングで辞めるのなら一緒にデザイン事務所を立ち上げようということになりました。

── お二人が独立された2008年頃は、東京はデザインが元気があった頃ですよね。デザインタイドなどが盛り上がっていて、海外からのデザイナーもたくさん東京に来ていました。

イトウ:日本人だと吉岡徳仁さんが注目を集めていた時期で、実は桑沢に入る動機も卒業生に吉岡さんがいたことがきっかけで、それをさらにたどっていくと倉俣史朗さんがいてというのがきっかけでした。

── デザイナーになりたいと思ったきっかけを教えてください。

ウミノ:僕は桑沢に行く前に大学時代は建築を学んでいて、卒業旅行で北欧に行きました。建物はもちろんよかったのですが、空間やそこにあるものがものすごく良くて。その時自分で、建築やスペースではなく、自分はもっと小さなものに興味があるんだなと気づきました。それまでは自分は建築家になることだけを考えていたのですが、それが転機となりプロダクトの方に方向転換しました。

イトウ:実家が建具屋で物づくりが身近にある環境で育ったことが大きく影響していると思います。漠然と物づくりに関わる仕事がしたいと思っていました。高校を卒業してからは美術系の短大に進み、そこでは立体ではなく平面を多くやっていました。卒業後はイベントの施工をしていたのですが、自分はつくる側より考える側になりたいと思って、それを仕事にするには、美大で2年間学んだことだけでは足りないと思っていました。自分もウミノと同じで空間全体よりも、物を観る方が好きでしたし、時代的にはちょうどプロダクトデザイナーが注目され始めたタイミングで、いろいろとデザイナーの仕事を見るうちに桑沢に入ってデザインを勉強することになりました。

── DUENDEから発売中の「TILL」について教えてください。

イトウ:2009年に発表したプロダクトです。前年に独立して仕事があまりない中で、その年のデザインタイドを見て、来年にはここで何かプロダクトを発表したいと思って考えたもののひとつです。生活の中に置くこと、シンプルな形のものをということで考えたプロダクトです。

── TILLは、傘掛けや物を置くトレイのような用途を持ちながら、自由に使えるプロダクトだと思いますが、デザイン当初はどのような用途を考えていましたか?

ウミノ:発想当初は当時住んでいた家の玄関が狭かったので、狭いスペースにも置くことのできる傘立てというものでした。途中からは玄関に関わらず多用途に使えるものということで考えていきました。

── TILLは自宅でトレイやちょっとした物を掛ける家具として使わせていただいているのですが、目線に近い位置にそこに掛けたり置いたりした物が感じられて、その佇まいもそうですが、物との距離感が新しいと感じました。

ウミノ:ありがとうございます。細長いプロポーションは、スタートが狭い玄関に置くための傘立てでしたので、商品化の際に微調整はありましたが、傘を掛けることが出来る高さが必要でした。最初は傘を掛けるL時の部分とトレイの間隔が実際に製品化されたものよりも狭めでしたが、それは後から改良しました。玄関に置くという用途も考えて、傘かけの上に鍵など外出時に持ち出す物を置くトレイをつくりました。

イトウ:デザインしてから8年ほど経ちますが、息の長いプロダクトとして販売していただいていて、デザイナーとしては嬉しく思っています。短いサイクルで商品が変わっていくことも多い中、MUTEとして最初に商品になったプロダクトが定番に近いかたちでブランドとして出してもらえていることは本当に良かったと感じています。

── MUTEがデザインする上で大切にしていることを教えてください。

イトウ:形だけの目新しさには面白さを感じません。みんながみんな同じ意識や感覚を共有しているとは思いませんが、多くの人の中にある懐かしさや記憶を思い起こさせるものに触れた時に、強く心を動かされると思っています。多くを説明しなくても、直感的に目が止まるような感覚というか。例えば、漆を塗る前の木地を活かした木の器のシリーズ「col.」では、木の素材感のあるものにコントラストの強い色をいれています。それは日本の昔の玩具や積み木のように、多くの人の中にある感覚に触れることで、つい手にとってしまいたくなるようなものになればと思ってつくりました。


photo by Koji Suga

── デザインする上で基準はありますか?

ウミノ:想定するものはもちろんありますが、スタートは自分たち自身ですね。価格ひとつとっても自分たちが買える値段感というものは大切にしています。

イトウ:自分が生活する中で使いたくないものはデザインしたくありません。さまざまな案件に向かう中で、その感覚は外せない要素です。当然ですが、自分では使わないけど、これはウケるのではというような考えで、物を考えることはありません。

ウミノ:それをしたら提案する前に内部的にボツにしています。

イトウ:それは今までの経験の中でそうやって出したものが今も商品として残って売っていただいているものですので、その感覚はズレていないと思っています。

── 僕も一人のユーザーとして新しいものを買う時に、これがあると生活が変わると思えるものに出会いたいと思っています。「TILL」も「col.」もそうですが、声高には主張はしないけれど、使っているうちに家具というものや素材そのものに対する向き合い方が変わっていくのを感じました。デザインにはまだまだ生活を変える力があるように感じました。

イトウ:自分自身もそうありたいと思っています。自分が考えたものが、ゆるやかにでも生活が変わる楽しさをつくることができたら嬉しいですね。

MUTE

イトウケンジとウミノタカヒロにより2008年から活動をスタート。プロダクト、グラフィック、スペースのデザイン、ディレクションなどを手がける。マークスインターナショナルからは「TILL」が発売中。


── MUTEを結成当時は2人でデザインを手がけていたと思うのですが、結成して10年近くたち、役割の分担も変わってきたのではないですか?

ウミノ:それについては特別話し合いはしていないのですが、気がついたら棲み分けができていました。初期のプロダクトである「TILL」をつくった頃は、2人でひとつのプロダクトについて考えていたのですが、やっているうちに詰め方のポイントや時間のかけ方などに、それぞれの配分やポイントがあって、互いがきちんとそれを出来ることが分かってきました。それであれば同じものを2人でやるよりかは、それぞれのものをどちらかが責任をもって最初から最後までやる方が結果いいものができると思うようになりました。ちょうどその頃から、僕はグラフィックの仕事をする方が面白くなってきて、イトウがプロダクト、僕がグラフィックと、自然とMUTEの仕事の幅が広がるきっかけになりました。

イトウ:僕はもともと学生時代に平面をやっていたので、グラフィックも好きでしたし、ものを考えるのも好きで、両方やっていたのですが、このままではどちらも広く浅くになってしまうかなと思っていました。それでMUTEで仕事をしていくうちに、プロダクトデザインの細かい収まりをみていくのが好きですし、それならばプロダクトに集中していきたいと思うようになりました。

── MUTEのデザインの背景についても少し教えてください。20世紀初頭のバウハウスというデザインのトピックス以降だけをみても、アメリカや北欧、日本にも柳宗理さんを筆頭にモダンデザインの流れがありました。そして80年代から90年代にかけてポストモダンやオランダのドローグデザイン、モダンデザインの再興や日本では2000年前後から無印良品のシンプルなデザイン、日用のものとしてのデザインが一般化しました。お二人はどのようなデザインに影響を受けましたか?

ウミノ:無印良品もそうですが、デザインを志した頃は深澤直人さんのデザインが当時情報も多かったですし、影響も大きいです。

イトウ:僕も学生の頃、深澤さんがつくる日用品のデザインに影響を受けました。それと、ちょうどドイツのブラウンやそれを手がけたディーター・ラムスの再評価の動きもあって、必要最低限の中でどれだけ機能に見合った形をつくることが出来るかという、ラムスの思想にも影響を受けています。「アフォーダンス」もそうですが、派手な目新しい色や形ではなくて、よりデザインの本質に近いところの話に興味を持ちました。

ウミノ:当時の他のどのデザイナーよりも、深澤さんの考え方は分かりやすかったですし、納得ができるものでした。深澤さんのデザインに関する言葉には気づきがたくさんありました。

イトウ:自分が学生の頃は、デザインはスタイリングすることだったり、どこか実際の自分が今生活しているところとは、少し違う視点から考えるということもありました。ですが、日常の中にいくらでもデザインのヒントは隠れていて、それを見つけられるかどうかにデザイナーとしての資質があるという考え方は今もつねに考えていることです。また、桑沢の先輩でもある藤城成貴さんに独立して間もない頃に出会ったのも自分にとって大きな転機になりました。藤城さんのアトリエで作品や本や収集したオブジェなどを沢山見せてもらう中で物の捉え方や世界が一気に広がりました。最も影響を受けているデザイナーです。

── 色が塗られた細いワイヤーで構成されたバスケットも同じようなコンセプトをもっているのでしょうか?

イトウ:ワイヤーのバスケット「TARTAN」も、これ自体は昔からあるものですが、そこに日に焼けて色褪せてしまったような淡い色を載せているのは、家の中で長く使っているうちに色褪せてしまったけど、なんか愛着があるようなあという感覚を呼び覚ましたいと思ってそうしました。そうすることで、新しいものでも、どこか抵抗なく手にとってもらえればと思いました。物の色には特に気を使っています。家の中に置いた時にいつまでも真新しさが残る物ではなくて、その場所に随分前から置いてあったような、そんな佇まいの物になればと思っています。

── 接合パーツのようなこの金具はどのようなものですか?

イトウ:これはDIYで組み立てることが出来るシェルフ「CL20」のためのパーツです。丸棒と板材を連結するための金具で、パイプとL字の金具を溶接したシンプルな構造です。これをつくったのは、最近はより素直に物をつくっていきたいという思いがどんどん強くなっていたことがありました。形は特別ではありませんしシンプルですが、今までにないような形ではなく、今までにあるような形でも、組み替えることでより魅力的になるものが、今の自分とってはしっくりくるのでつくったものです。

ウミノ:ここ最近で、僕自身も一番気に入っているプロダクトです。

イトウ:出来ることが限られている中でつくったものですが、何でも出来ますではなくて、限られた条件の中で何かを考えていくこと、誰もが知っている技術で、どれだけ新しいものをつくることが出来るか、そこに向き合うことが楽しいですね。この金具は江戸川区にある西川精機製作所さんと一緒に「交場プロジェクト」の中で製作した物です。

── 金属の色味も渋くていいですね。工業製品なのに若干むらがある感じも物としての多様性が感じられて魅力的です。最近はちょっとした違いを不具合として捉える風潮もありますが、それはひとつひとつの物が持つ魅力や、それがもつであろう可能性を狭めてしまうような気がしています。

イトウ:ステンレスに熱をかけて酸化させることでこの独特な色合いになります。これは金属特有のもので、その特性を活かしています。

TILL
¥8,000+税
color : Black・White

2017.03 Journal #41
「ゆるやかに生活を変えていくもの」

Photography & Text:

加藤 孝司

ジャーナリスト

http://form-design.jugem.jp/

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