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Journal #39

身軽さの象徴としての家具
WALL RACK

2017.01 Photography & Text: 加藤 孝司

日々の忙しい暮らしから離れ、ここではないほかのどこかに旅に出てみたい。毎日が忙しくなればなるほど、そんな思いがふと頭に浮かぶ。それは日々の中で気持ちを軽やかにしてくれる大切な感覚だ。

そんな部屋の中にいても旅を感じさせてくれる家具がある。
WALL RACKはパイプで構成されたシンプルな立て掛け式のラックである。本を載せて本棚のように使ったり、衣服や鞄などを置けばクローゼットに、リビングやダイニングではちょっとしたテーブルやキッチンまわりのものを置く風通しのよいラックとして活躍してくれる。
「一番上にリュックがのっていて、その中身が気持ちよくラックに並んでいるイメージです。服も、本も、靴も、自分の大事な生活必需品がとりあえずそこにある。そんなふうに使っていただけたら嬉しいですね」というWALLのデザイナー、真喜志奈美氏の言葉のように、当たり前の毎日を過ごしている心がふっと軽くなるような、軽やかさをもった家具だ。

WALLをデザインした真喜志奈美氏は、ソウル、東京などを経て、現在、生まれ故郷である沖縄と東京の二拠点で活動をするデザイナー。プロダクトデザインの他に空間などのデザインも手がけている。このWALLは真喜志さんがデザイン事務所を初めて立ち上げたソウルで試作品を作り、2000年の毎年イタリアミラノで行われる国際的な家具見本市であるミラノサローネでお披露目された。

WALLのユニークなところは、抜群の収納力を持ちながら、その存在に「重さ」がないこと。これはとかく狭小な日本の住宅事情におけるインテリアとしてはとても重要な要素だ。かつての日本人の住まいにおいては、家具調のオーディオや立派なタンスは「豊かな暮らし」の象徴であり憧れであった。だが、スマホひとつでほとんどのことが完結してしまう現代においては、大きさや豪華さは人びとが求めているものでは決してない。

日々の過ごし方や人との関係において、心地よい気兼ねのなさで暮らしを風通しよく満たし、些細でも何かの役に立ったり、心の隙間を優しく埋めてくれるもの。家具や道具にもそんなものが求められているように感じている。
WALLは、たとえが家具からは離れるが、笊や網などのように、あるいは公園のベンチや手すりのように、なんとも身軽な風通しの良い日常品といえはしないだろうか?
笊や網と気軽に言ったが、これは家具としては結構アヴァンギャルド=前衛的な在り方には違いない。日用使うものとして、荒物と言われる笊や網は、身近に手に入る素材と簡素な作りだが、過不足のない機能性で今や道具として見直されているものである。現代においては家具もそのくらいの軽さをもったものがちょうど良い。
WALLは上下の継ぎ目の下を両手でひょいと持って、持ち運びができるので、部屋の模様替えも気楽にできるし、一人暮らしや引っ越すことの多い人には、使い勝手のよい収納家具とし重宝する。パイプのみで構成されたミニマルな造形は、無駄のないシンプルさでインテリアとしての佇まいも抜群だ。

日々使っていて感じるのは、物の一時保管場所として便利であることと、立て掛け式でありながら、極めて安定性があるということ。
外から帰ってきて、着ていた上着やカバンを置いたり、手に入れたものを置いて即席の飾り棚にしたり。しかも棚から溢れるくらいの物を置いても、なんとなく様になるし、ひとつの風景としてそれが心地よかったりもする。
安定性の面でいえば、たくさんのものを置いても、棚がぐらついたり傾いたりすることがまったくない。傾斜のないフラットな床とまっすぐな壁に無理のない角度で立て掛けさえすれば、多くの物を置けば置くほど、むしろ安定してくれさえする。

ここ数年の間に生活に豊かさやゆとりを感じる心のありようも変わってきたように思う。高度経済成長から続いていた、物がたくさんあることの豊かさではなく、大切な人や物に囲まれた心の豊かさを感じようとする感覚だ。それは昨今の「断捨離」という言葉に代表されるように、個人の美意識によって選び抜かれた、必要最小限のものに囲まれて、それでもなお豊かさを感じられる心のありようでもある。

自分にとって本当に大切なものは何か?たくさんのものを見ることで、それを見極める目を養い、暮らしに必要なものだけを取り込むことで身軽に、だが個人の価値観で豊かに生きる暮らしが共感を集めている。不特定多数のネット上の友人より、最小限の大切な物たちに囲まれて暮らしたい、そう思う人々が増えてきているのもその心のあらわれの一つだろう。
特に日本の場合、住居の狭さに対し、物の流通量が多いため、この考え方が及ぼす生活への影響は大きい。ひとつひとつの持ち物に自分なりの意味と意義を感じ大切にすることは、家族や気心の知れた友人を大切にしたいという感覚とどこか通じている。

だからこそ人は時にWALLに載るくらいの最小単位の暮らしに憧れを抱く。明日はココとは違う、どこか別の街で暮らす。今とは違う自分を想像するだけで、心が軽やかになることもあるのではないだろうか?そんな身軽さの象徴としての家具を部屋に置いて暮らすことは、気持ちに余白をもたらす開放感とともに生活を便利に楽しくしてくれるに違いがない。

WALL RACK
¥22,000+税
color : White・Grey・Shabby

2017.01 Journal #39
「身軽さの象徴としての家具 WALL RACK」

Photography & Text:

加藤 孝司

ジャーナリスト

http://form-design.jugem.jp/

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