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Journal #28

お菓子の旅はこれからも続く LE CAFE DU BONBON主宰 久保田由希氏

2015.11 Interview & Text: 水島 七恵

たまらなく甘い匂いを漂わせたアトリエで、
焼き目のついたどこか懐かしさを感じるカスタードプリンを作っていたのは、
LE CAFE DU BONBONを主宰する久保田由希さん。
機密性の高いWECKジャーに入ったこのプリンの届け先は、
ザ・コンランショップ・キッチン。「WECK × THE CONRANSHOP KITCHEN」と題し、
2週間限定(10月25日〜11月4日)で販売されたのでした。
久保田さんの作ったプリンをうれしそうに手にしていく人々の姿を想像しながら、
この機会にぜひ作り手として久保田さんの想いを聞きたいと、アトリエを訪ねました。

保存や収納だけでなく、調理道具としての魅力

── うれしいタイミングでアトリエにお邪魔しています。すごくいい香りが漂っていて、幸せな気持ちになります。

このカスタードプリンは去年に続き、THE CONRANSHOP KITCHENでの2度目の販売とデモンストレーションになります。去年とWECKの容器のサイズは変わりますが、レシピは一緒。卵の味はしっかりと、カラメルソースの苦みがちゃんと効きつつ、焼き目もついた家庭的なプリンをと、ひとつひとつ作らせていただいています。火の入り方はゆっくりですが、WECKは耐熱温度差80℃のガラスなので、この温度差内であればそのままオーブンに入れて作ることができます。

── このカスタードプリンのほかに、久保田さんは普段WECKをどのように使われていますか?

THE CONRANSHOP KITCHENでの企画をきっかけに、普段主宰している製菓教室でも使うようになりました。あとはお花を飾る花瓶として使うことも。WECKの機能はいろんな発見があって楽しいです。

── 製菓教室に通う生徒さんのWECKに対する反応はいかがですか?

真空調理という言葉を聞いたことはあっても、実際はよくわからない、という生徒さんが意外と多くいらっしゃるんです。なかにはパッキングの意味を知らなくて、「そのまま付属のパッキンを捨ててしまった」という生徒さんも。ところが実際に教室でガラス容器、材料を入れてパッキンを挟んで蓋をして、クリップで止めて熱湯煮沸。または、容器に材料を入れてオーブンに入れて焼く……。WECKでの焼き菓子作りの工程を踏むうちに、「へ〜」と、その機能に気づいてWECKを好きになる生徒さんもたくさんいます。保存や収納だけでなく、WECKが調理道具としても活躍できることを知ってもらえることは私自身、とてもうれしいですね。それにWECKは透明なガラスなので、そのまま食卓に出しても見栄えが良いですし、贈り物としても喜ばれると思います。小物入れとして使っている生徒さんもいらっしゃいましたね。WECKは、その機能の良い面を生かしていくと、日常の様々なシーンで利用できるところが魅力だと思います。

── 2003年からLE CAFE DU BONBONとして個人で活動している久保田さんですが、現在その活動の中心はアトリエでの製菓教室とお菓子の販売と、お客様と直接触れ合いながら、できたてのお菓子を提供されることをとても大切にされている印象です。

そうですね。そもそも「食」ってすごく本能的なもの。人間の五感のすべてを使いながら身体に吸収されていくものだから、作る過程を知ってもらいながらできたてを食べていただくことが、何よりも食の醍醐味になると思っているんです。その方が、美味しい、美味しくないという実感もダイレクトだと思うんですね。そうやって世の中に流通している情報や記号で判断するのではなく、本当に食べたいものは自分の身体でちゃんと知ってもらいたい。そんな思いがあるから、自分の手で作ったものをお客様と直に触れ合いながら食べていただくことが、活動の中心になっているのだと思います。

── お菓子の販売ではビスキュイドサヴォワとチーズケーキ、ガトーショコラが長く定番ですね。

人間は歳を重ねることで味覚が変わっていきますし、時代の変化もあります。そういうものに合わせて、自分の作るお菓子もちゃんと微調整をしていけるようになっていたいんです。そうすると、販売するお菓子の種類もそんなに必要なくて。これからも同じメニューのなかで、日々研鑽を重ねていきたいです。


── そんな久保田さんが作るお菓子のルーツはどこにあるのでしょう?

やはりそれはフランスで食べたもの、そのままの現地の味ですね。もちろん、今私が住んでいる街は東京なので、フランスとは空気は違いますし、材料に使うバターも粉も違います。だけど原点を知っている上でアレンジを加えるのと、原点を知らないままにアレンジを加えるのでは意味が変わってくると思うんです。もちろん、クラシックな味がお菓子のすべてだとは言いませんが、自分のアレンジを加えられるのは、原点を知っていてこそだと私は思っています。

── フランスに行くきっかけについて教えてください。

もともと東京に住んでいた頃からお菓子が好きで学校に通っていたんです。でもそこで習ったお菓子は勉強と一緒で、自分で繰り返し作ってみないと決して自分のものにはならないんですよね。それに焼き菓子は材料がシンプルな分、何度も作ることで素材の変化も感じやすいんです。だからこそ余計に基礎をしっかり憶えないと全然だめだなって気がついて。それでその通っていた学校がLE CORDON BLUEで本校はパリにあるので、東京校からパリ校に移籍することにしたんです。

華美な味ではなく、家庭に根づいた味を求めて

── そもそも久保田さんが料理ではなくお菓子作りを選んだ理由とは?

お料理と違って、材料をきちんと計れば作ることができるのがお菓子の魅力ですね。つまり答えがはっきりしているんですよ。ただその答えに辿り着くための道のりは、個人の自由なのです。そこに魅力を感じて私はお料理ではなく、お菓子を選んだと思います。

── 実際フランスに行くことで何を得ることができましたか?

フランスは、お菓子はもちろん、食のすべてが日常的に豊かでした。言葉はほとんど話せませんでしたけど、食べる欲求だけは強かったので、毎週マルシェに通いながらいろんなお店の店主の話を聞いて歩いていました。とにかく普通に生活するだけでもとても楽しかったです。でも今思うと、そうやって日々楽しく過ごせたのもきっと、言葉がわからなかったからなのかなとも。例え厳しいことを言われていても、わからないので全部OK!みたいな感じだったので、それが当時は逆に良かったのだと思います(笑)。




── そんな充実した現地での生活のなかでも最も感動した体験とはなんですか?

カフェで飲んだコーヒーについてきた四角いチョコレートの味です。それがすごく濃厚でビターな味わいで……、本当に美味しくって感動したんです。パリにはチョコレート専門店がたくさんあるんですけど、ひとつひとつ味わいが全然違うんです。チョコレートひとつにこんなにも幅があるのだと、ここでもまた感動しました。それで料理学校の先生に「どういうお店で研修したいの?」と聞かれたときには「チョコレート専門店へ行きたい」と答えていました。その当時はまだジャン=ポール・エヴァンさんも現場に立っていたんですよ。

── それでチョコレート専門店の現場に入られたのですか?

いえ、学校からはチョコレート屋さんには生徒を送っていないと言われました。というのも「レシピはシェフが作るものだから、きみたちが現場に行っても洗い場しか担当はない」と。それでそうこうしているうちに東京に住んでいた頃にお世話になった橋本徹さんから「渋谷でカフェをオープンさせるからそこでぜひお菓子を作って欲しい」と、お誘いいただいて。学校を卒業してから1年ぐらい経った頃のことですね。それでカフェでなら私にもできることがあるかもしれないと、帰国することにしたんです。そのカフェが渋谷の「カフェ・アプレミディ」です。

── 「カフェ・アプレミディ」と言えば、渋谷のカフェ文化を引率したお店です。橋本さんとはどんなきっかけでお知り合いになられたんですか?

20代半ばの頃、私は友達とふたりでフリーペーパーを作っていたんです。その当時橋本さんは「Free Soul」というイベントを行っていたんですが、何号目かに登場して頂いたり…..。そのご縁でフリーペーパーにイベントの告知を毎号掲載するという約束でスポンサーになって下さったんですよ。それがきっかけで交流がありつつ、その後、私はパリに住むことになったんですけど、橋本さんは私がパリでお菓子を勉強していることを憶えていてくれたんですよね。パリにいらしたときに、声をかけてくれたんです。

── すごいご縁ですね。

そうですね。もともとパリに来たのも、絶対的な夢があって来たというよりは好きなお菓子の基礎をちゃんと知りたいという気持ちだけで来ていたので、学校を卒業した後も、住めるなら住み続けたいな……というぐらいの感覚だったんですね。なので、橋本さんからお話を伺ったときもそんなに迷わずに帰国することを選びました。それでしばらく「カフェ・アプレミディ」で経験を積ませていただいた後、LE CAFE DU BONBONを始めたんですが、そのときもまた橋本さんにお世話になりました。当時橋本さんが渋谷のパルコpart1の地下にセレクトショップ「アプレミディ・セレソン」をオープンされたんですが、お店のショウケースで自分のお菓子を販売していただいたんです。そこから少しずつ広がっていって、今の活動に繋がっていきました。

── LE CAFE DU BONBONとしての活動は約12年になりますが、振り返ってみてどんなことを感じますか?

この12年は人のご縁に恵まれて今日までやってこれたなあとしみじみ思います。そして自分の手を動かしながら、とにかく作って作って……の繰り返しの毎日でもありました。いくら頭で考えてみても、やっぱり手を動かしてみないとだめなんです。頭で考えたことを実際にやってみると全然違うものになるということが本当によく起きるので、その経験値を日々データにしながら、その上で何を自分は作るのかを、日々突き詰めていくしかないんですよね。それは作れば作るほど実感しています。

── 突き詰めていくなかで、今、久保田さんはどんなお菓子作りを目指していますか?

手を加えて華美にしていく世界もあると思うんですけども、私はそういう世界ではなく一番ベーシックなもの、どんな人が食べても美味しいと思える味の方に興味があるんです。そういう感覚を持ち始めたのは、自分でLE CAFE DU BONBONをやり始めてからかもしれません。自分が作っているお菓子のルーツは実はフランスだけでなく、フランスの領土と密接な北イタリアだったりすることも多いんです。どちらかというとイタリアの方が商売っ気がなく、お料理もお菓子も一般的な生活文化に寄り添っていますし、人々はそれを当たり前のように作って食べているんです。例えばマカロンはフランスの代表的なお菓子ですが、その発祥はイタリアです。今も北イタリアでは、マカロンの原型となった焼き菓子が地元の人々に親しまれています。そういう味を私なりに目指していきたい。だから今こそ現地で生活しながら研修をしたら、すごく身になるような気がしているんです。もしも今後時間が許すときがきたら、ぜひ行ってみたいと思っています。

── 久保田さんの作るお菓子がどこまでもぶれずにある理由を、この取材を通じて知ることができた気がします。と同時に作り続けるなかで久保田さんがどう変化していくかも楽しみです。

私はおばあちゃんになってもお菓子を作り続けていたいんです。その頃には歯も抜けてしまって、今のような歯ごたえのある焼き菓子が食べられなくなって、ムースのようなお菓子を作っているかもしれません(笑)。または逆に頑固に今と変わらないお菓子を作っているかもしれないですけど……、とにかくおばあちゃんになった自分がどんなお菓子を作っているのか、今からすごく楽しみにしているんです。


久保田由希(LE CAFE DU BONBON主宰)

1998年渡仏、料理学校LE CORDON BLUE(Tokyo,Paris校)製菓コースデュプロム取得卒業。帰国後、都内カフェ等でメニュー企画、製造を行う。同時にLE CAFE DU BONBONとして個人で活動を始動。2003年より少人数制の製菓教室を始める。2006年4月、カフェ併設スタイルの製菓教室を渋谷区元代々木にオープン。欧州研修旅行企画開催、料理教室企画運営と共にヨーロッパ、フランス国内を巡り郷土菓子を訪ね現代の製菓との研究を続ける。

2015.11 Journal #28
「お菓子の旅はこれからも続く」

Photography

井上 美野

フォトグラファー

Text:

水島 七恵

エディター

http://mninm.com/

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