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Journal #18

2015.01 Photography & Text : 加藤 孝司

デザイン、日用品、雑貨、インテリアなど、
私たちの日常を取り巻く、暮らしを豊かに楽しくしてくれるものたち。
それらのありかたが時代とともにどのように変化し、
どのように私たちの暮らしと関係しているのか。
デザインやその周辺に深い知識をもつ柳本浩市氏と一緒に、
暮らしをより楽しく豊かにしてくれる日用品について考えます。

80年代、アンアンからはじまった

── 現在のライフスタイルブームに繋がる日用品という概念はいつ生まれましたか?

普段使うものにおしゃれみたいな付加価値がつきはじめたのは、80年代から数々の女性誌を中心に活躍したインテリアスタイリストの岩立通子さんの影響が大きいと思います。岩立さんは80年代後半のアンアンなどの一般誌のインテリア特集などで、デザイナーがデザインした、いわゆるそれまでのデザインものではなく、海外で日用品として使われているデュラレックスのコップのようななんでもない日用品を、インテリアのスタイリングに取り入れました。海外のアノニマスな日用品が、おしゃれの感覚で日常化されたのはこの時代です。

── 当時は専門店ではなく、雑貨屋さんやスーパーでそのようなものが売られていたんですね。

雑貨屋さん自体が今に比べて極端に少なかった時代です。それまでは昔ながら家具を扱う大正堂のようなお店はありましたが、この時代にサザビーのようなショップが出来て、デザインの感覚をもったおしゃれな雑貨というものが日常化していきました。それまでは今に通じるような「おしゃれセンス」で日用品を買ったり使うという考え方自体が一般的ではありませんでした。目黒通りに今もあるパイン家具のお店アムス テーブル&チェアーズなどが、雑誌アンアンやオリーブのインテリアや雑貨特集のページに登場し始めた時代です。それまでそのようなカントリー調の家具やインテリアといったものは、クロス・ステッチやパッチワークなどカントリー好きな人だけが注目していたようなスタイルだったのですが、一般誌であるおしゃれ雑誌のスタイリングページに登場するようになり一般化していったという経緯があります。

柳本氏が最近愛用している日用品 1

『FISKARSのハサミ』

定期的に訪れているヨーロッパで、昨年、パステルカラーの柄が気に入って購入したフィンランドの老舗刃物ブランドFISKARSのハサミ。FISKARSのハサミのシンボルカラーはオレンジ。これまで日用品の色は無機質な色やポップな色が多かったが、最近はパステルやグレイッシュトーンが多くなり、その流れが気になっている。

── ライフスタイルを豊かにする今に続いている日用品という概念が一般化したのがこの時代だったのですね。

それとそのような雑誌の編集者やスタイリストが、アメリカン・ファーマシーのような薬局で置かれているアメリカの雑貨や、外国人向けのスーパーであるナショナル麻布スーパーマーケットで売っている、海外で本当の日用で使われている雑貨などをファッションやインテリアページのスタイリングとしてピックアップして、それまでインテリアショップで売っていたような雑貨と初めて横並びで扱いました。
雑誌をきっかけに「編集」というものが暮らしとデザインの間にワンクッションとして入って、現代に近いライフスタイルが初めて提案されたのがこの頃でした。

── ライフスタイルの提案における、ある種の目利きたちが登場したということでしょうか。

そうです。それが雑誌を舞台に活躍するインテリアスタイリストや編集者であったわけです。
それまでも雑貨や家具好きな人たちはいたと思うのですが、彼らが雑誌でこれらのものを紹介するまで、それまでインテリアは家具屋、雑貨は雑貨屋で買うものだと思われていました。それまで一般の人がナショナル麻布マーケットのようなお店に雑貨を買いに行くということ自体なかったと思うんです。100年以上の歴史をもつWECKのような食品容器は、今ではおしゃれとして認識されていますが、それまでは海外のスーパーで普通に売っているような実用品です。そのような本当の日用品をインテリアや雑貨として取り入れようという意識は普通の人たちにはなかった時代に、海外の人向けのスーパーでもそのようなものが売っていますよと教えてくれたのがこれらの雑誌でした。

── F.O.B COOPのようなお店がオープンしたのもこの頃ですね。

まさに岩立さんとF.O.B COOPの益永みつ枝さんとの抜群のコンビネーションのようなもので、海外のアノニマスな日用品がおしゃれアイテムとなる黎明期をつくっていきました。

── そこにはそれまでのブランドやデザイナー、作家の名前で何かを選ぶというよりは、憧れのライフスタイルがあってその暮らしを実現するためにアノニマスな日用品を選ぶという時代になっていったのですね。

今でもそうなのかもしれませんがいわゆるデザインってニッチな世界じゃないですか。多くの人が普段使いするものはハイセンスなデザインショップに置かれているものよりも雑という言葉の通り雑多な日用品である雑貨の方がライフスタイルの中ではリアリティを持てたのだと思います。

── そういった意味では日本における、今のライフスタイルブームに直接繋がる「日用品」のトピックスは80年代にあるわけですね。その次の流れはどのようなものがありますか?

それは90年代から人気を博しはじめた無印良品だと思います。無印良品もその名前の通り、どちらかといえばアノニマスデザインですが、その名前だけでなく、家電から寝具から食品まで品目の概念を越えて、1つのスタイルとしてフラットに見せてしまおう、というのはこの時代から起こってくる次の日用品の流れです。

── 80年代のインテリアブームの背景に人びとの西洋文化への憧れがあったとしたら無印良品の人気というものの背景には別のものがありそうですね。

西洋文化への憧れというものが人びとの暮らしの中でもある程度ローカライズされたのが90年代くらいだと思うんです。そしてデザイン家電といわれるものが1995年以降に登場して人気になります。

▲Glyph.として出版も手がける柳本氏。ミッフィーの作者として世界的に知られるオランダのデザイナー、ディック・ブルーナが1950年代〜1970年代に手がけた書籍の装丁作品をほぼコンプリートに集めたハードカバー本「Zwarte Beertjes: Black Bear Dick Bruna装丁の仕事」(2003年)を発行、ロングセラーになった。

── その背景には何があるのでしょうか?

それは80年代のバブル経済の崩壊による生活スタイルの劇的な変化もひとつの要因としてあると思います。それ以前の日本のデザインものといえば、マリオ・ベリー二やエットーレ・ソットサス、ルイジ・コラーニなどのスターデザイナーにデザインを依頼したものなどがありましたが、それとは異なる江戸時代のような昔から日本人が培ってきたような自分たちの背景に根ざしたものからデザインを掘り起こそうという機運が、90年代に入って生まれてきました。それはある意味、自分たちの日用品への意識が成熟してきたんだと思います。
無印良品のデザインがそれまでのデザインものと異なるのは、消去法としてのデザインである点です。どちらかといえばデコラティブなものが中心であったデザインものの流れの中で、日本のデザインのある種成熟した一つの形としての無印良品のデザインの中から、シンプルなものでいいという今に続く日本のデザインの文脈が出来てきたと思うんです。そこから建築にしても豆腐のような白くて四角いアイコニックなデザインが生まれてきたのではないでしょうか。

柳本氏が最近愛用している日用品 2

『BIG-GAMEのUSBメモリースティック』

HAYから発表されているシリコン製品を得意とする香港のメーカーPRAXISが、スイスを拠点に活動するBIG-GAMEのデザインでつくったポップなカラーとデザインに特徴があるUSBメモリースティック。ディスクトップまわりのアイテムは現代に生まれた日用品だ。

ライフスタイルショップの登場

── 今回は現在に続く日用品のデザインは80年代以降にその大きな流れが生まれてきたというお話ですが、それ以前はどうだったのでしょうか?

日本のデザイン黎明期は戦後の1950年代にありました。その頃に工業デザイナーの柳宗理が無地の食器セットをデザインしましたが、市場ではあまり受け入れられませんでした。無地の食器は今では当たり前ですが、当時の食器といえば絵付けが施されることで完成品とされていました。当時は早すぎたとも言えるのですが、50年近くたって一般の人が無地の製品を日用品のベースとして受け入れることができるようになったともいえるわけです。それはバブルという大きな消費の時代が終わって、シンプルなもののほうが生活に馴染み、気分的にも落ち着くと思えるように成熟してきたんだと思います。

── マークスインターナショナルのオリジナルブランド「DUENDE」の人気商品である「WALL RACK」(2000年)や「STAND!」(2004年)は2000年前後にデザインされました。これらの作品についてはいかがですか?

WALLは実は僕の家でも洗面所でタオルを収納する棚として使用しているんですよ。2000年前後は日本においてデザインという概念が定着し、日本人デザイナーのプロダクトが爆発的に登場してきた時代です。それ以前はインハウスデザイナーはもちろんですが、日本人デザイナーの名前を表に出した商品は極端に少なかった。柳宗理の名前もローカルなものとしてのデザインが注目されるようになった2001年にカーサブルータスで柳特集が組まれるまで、ほとんどの人は知りませんでした。デザイン家電や無印良品にもデザイナーがいるということが、情報やメディアによって可視化されていきました。それは「インターネット元年」といわれた1995年にウィンドウズ95が発表され、皆がインターネットで情報を検索できるようになったこととも関係しています。
それと1992年に放映が開始されたテレビ番組「浅草橋ヤング用品店」をルーツにもつ「ASAYAN」(1995年〜2002年放映)の番組企画で、アノニマスな人びととしての一般人がフィーチャーされて、スポーツ選手や歌手、ファッションデザイナーが番組の中から誕生しました。そこではファッションブランドのデザイナーや作曲家、演出家、中華の料理人などそれまで裏方であったものづくりのプロたちが表に出始めました。そんなことも無印良品などのアノニマスな生活雑貨を人びとが受け入れ、注目を集めるようになった背景と無縁ではありません。今でもショップのオーナーや編集者が雑誌でお気に入りを紹介し、それが市場で価値を持つということがありますがタレントなどの有名人ならいざ知らず90年代以前であればそのようなこともほとんどありえませんでした。

▲2008年8月にGlyph.のキュレーション、会場構成、資料提供によるスウェーデンのグラフィックデザイナー、オーレ・エクセルの展覧会「Vad är design?(デザインって何?)」を、表参道ヒルズのefffy gallery & storeにて開催。

── なるほど。その頃から家具も家具屋さんなど専門店で買う時代から、雑貨屋さんやライフスタイルショップで買う時代に変化していきました。それはなぜだと思われますか?

それも先ほどのWALLのような家具が受け入れられる背景にあると思います。家具というと完成度が求められますが、棚というと人が関わる余地がある。それまでWALLのような、インテリアと雑貨の中間のようなものはあまりなかったと思うんです。それらを売る場所にしても、それまでは雑貨屋かインテリアショップしかなかった。今でいうライフスタイルショップのような、その間というものはありませんでした。
2000年以降、そこにビジネスチャンスがあるということに気づいた人たちがいました。2000年代に入って登場したショップ「シボネ」のような、家具も売っていれば食器もファッションも売っているお店って、今では当たり前にあるけれど、当時の日本ではほとんどないお店のスタイルでした。

── 確かに、今でいう食器も家具も食品も買える「ライフスタイルショップ」は2000年以降に生まれたものですね。

その頃にはサザビーやキャトルセゾン、私の部屋などのインテリアショップや雑貨屋さんのセレクトも、フレグランスや紅茶を置いたり、ライフスタイル寄りに変わっていきました。それまでは食器は食器屋さんで買うものだったのですが、コーヒーカップやティーカップがあるならコーヒーや紅茶が同じお店で売っていてもいいじゃないかと、商品のセレクトの幅が横にどんどん広がっていきました。その流れが今に繋がっています。

『DUENDE』柳本氏セレクト

WALLは実は僕の家でも洗面所でタオルを収納する棚として使用しています。タオルは毎日使っては洗うものですので、戸棚にしまうほどでもありません。棚にしまったものを簡単に出し入れができる、手軽な棚ってそれまであまりなかったんです。そこでWALLを選びました。それと棚って扉を付けて棚にすると厚みがでて、どうしてもスペースをとってしまい圧迫感がでてしまいます。家具のデザイナーは家具としての完成形にこだわる感覚があり、これまでの家具のデザイナーにはWALLのような意識はあまりなかったと思うんです。今であれば家具デザイナーもこのような考え方で家具を作ると思いますが、2000年前後でこれが生まれたのはかなり早かった。よく考えられた日用に使いやすい棚だと思います。

暮らしを豊かにする「曖昧」な概念

2010年代に入ると、暮らし自体をさらに豊かにしていこうという動きが顕著になってきて、インテリアや雑貨もライフスタイルというカテゴリーに含まれるようになってきます。
雑誌にしても2013年に創刊された「&プレミアム」(マガジンハウス)や、2011年にアメリカポートランドで創刊された「KINFOLK」はライフスタイル誌という以外、もはや何の雑誌かカテゴリー分けすることができません。そのような曖昧な概念が登場してきたのが2010年に入ったここ数年です。これらの雑誌が象徴しているのが、ファッション、食、インテリアの境界がより、日用品のレベルで曖昧になっている現状です。

── それが人びとの暮らしの憧れを喚起しているのでしょうか?

そうです。そこではライフスタイルを豊かにするものがインテリアだけでなく、ファッションや生活すべてを含めたパッケージとして提案するという形になってきています。それは多分お店もそうなってきていて、これからますます何のお店か一言ではいえないようなお店が増えていくと思います。

柳本氏が最近愛用している日用品 3

『HAYの付箋』

オランダ人デザインデュオ、ショルテン&バーイングスがデザインしデンマークの人気デザインレーベルHAYからリリースした付箋。パステルトーンのデザインと付箋らしくないユニークなデザインは他にはない。

── テーブルや椅子などの家具やWECKのような食器もそのようなお店で売られていますね。

そうです。その中でポートランドっぽい雰囲気が好きならこのスタイル、ヨーロッパが好きならこのスタイルと分かれてくるのではないでしょうか。

── そういった意味では2010年以降に登場したお店やブランドは、カテゴリーを緩やかに越境しはじめているのを感じます。それはある意味何でもありな状況になりかねないとも思うのですが、そこで大切になってくるのはどのようなことでしょうか?

日用品やデザインを売るお店や作る側、それらを紹介する雑誌も、これまでのようにただ単に目利きがいるだけでは成立しなくなってきています。セレクトもチープなものもあればハイエンドなものもある、それをみせる空間や誌面づくりも含めて、どのようなスタイルを提案しているのか、明確な考え方をもっていないと成立しなくなっていくでしょう。
単純に物を提案したり売るということから、キュレーター的視点でものを選び、その背景を伝えるメディアを立ち上げたり、トークイベントやワークショップを企画したり、ものからことを起こしていく作業もより重要になってくると思います。

── それがひいてはブランドやお店の顔やイメージになっていくということですね。

そうです。セレクトや境界が曖昧に分からなくなっていく代わりに、ものづくりやセレクトを通じて私たちは何を訴えているのかという意志が必要になってきていると思うんです。例えばAmazonなどのネットショッピングがこれだけ市民権を得てくると、イッタラのグラスであれば、お店にわざわざ足を運ばなくてもネットショップで買えるじゃんという感じになってしまう。そうではなくて、イッタラのグラスの隣にこのようなものがある、そのような考え方をもってセレクトしているその私たちのお店の考え方を含めて買ってください、と意志をもっていえるのがこれからのお店やブランドに求められることです。ネットには出来なくて、リアルにしか出来ないことというのは、世界観の構築とお店の人やつくり手と話すコミュニケーションだと思っています。

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柳本浩市 (Glyph.代表)

1969年山梨生まれ。膨大なデータやコレクションから社会学、心理学的に事象を読み取り、さらにそれを実ビジネスに繋げていくという今までと違った形でデザインを基軸とした商品開発、マーケティング、ブランディングなど行う。国内外の雑誌への連載・執筆も多数。著書に『Design=Social』(ワークスコーポレーション刊)、編著に『共創がメディアを変える コミュニケーションで紡ぐ新しい電子出版』(中村堂刊)がある。

2015.01 Journal #18

「わたしたちの日用品の現在性。」

Photography & Text :

加藤 孝司

ジャーナリスト

http://form-design.jugem.jp/

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