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Journal #07

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2014.02 Text:堀 紋子

ホームキャニング、それは家庭で食品を長期保存するために
瓶や缶などの容器に食材を入れて煮沸消毒する調理法を言います。
欧米では古くから多くの家で行われていたもので、
もともとは食材が乏しくなる冬場の食料のために考えられた生活の知恵。
しかしその美味しさや便利さから最近日本でもデリやカフェで見られるようになり、
たくさんの料理研究家が注目しています。
今回はそんなホームキャニングのパイオニア、WECKを紹介します。

いちごが目印

最近では日本でも店頭で多く見かけるようになったWECK社のキャニスター。名前は知らなくても瓶の蓋のいちごマークを見た事があるのでは? 実は私自身、以前はWECKという名前を聞いた事がありませんでした。しかし先日実家に帰省した時の事、キッチンで母がいちごマークのキャニスターを使っていたのです。知らないうちにすっと暮らしに馴染んでいるちょっと控えめなやつですが、使い慣れるともう手放せない代物。様々な調理法で未知数の料理を作る事ができて、長期保存も可能、知れば知るほどこんな使い方もできるのね!と常に驚かせてくれるかなりの優れものです。女性も社会に進出し働く時代、時間のあるときに作り置きができ、これほどまでに今の暮らしに適している便利で楽しいキッチン用品はなかなかありません。でもその歴史はとても古く、それは今から100年以上も昔に遡ります。

WECK社の生みの親ヨハン=カール・ウェックがドイツのフランクフルト郊外に誕生したのは1841年のこと。後年彼はライン川の東岸に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州のバーデンという街で暮らしていました。そこは山と渓谷からなる肥沃な土地でプラムやリンゴ、チェリー果樹園のパラダイスであり、クルミの成長やはちみつ製造にも適した場所でした。自分に厳しくアルコールを自制しベジタリアンだったウェックでしたが、このような恵まれた環境で過ごすうち、ある日ふとひらめいたのです。それが当時流行していたフルーツを使ったアルコール作りとフルーツのアルコール漬け製造でした。彼はこのプロジェクトを実現させるため、ガラス瓶とゴムパッキン、金属製の蓋に石のような重みを加えて密閉し煮沸消毒する、化学者ルドルフ・レンペルが持つ保存法の特許を購入。ちなみにこの製造特許はレンペルが亡くなる一年前の1892年に取得したものだったそうです。

▲ ヨハン=カール・ウェック
(Johan Weck)

▲ ヨージ=ヴァン・エイック
(Georg van Eyck)

その後ウェックのビジネスは始動し、ライン川下流の陶器、陶磁器店のオーナーであったヨージ=ヴァン・エイックが1895年にウェックの瓶を売り始めてからはぐんぐん業績を伸ばしていきました。ウェックはウィックのセールスに対するエネルギーと想いを買い、共に事業を行うことを提案。そして2人は1900年1月1日、正式にWECK社(J.Weck Company)を設立したのです。設立後2年も経たないうちに同社のガラス瓶は国境を超えてフランス、スイス、オーストリアなどの国々に広まったと言います。

エイックはビジネスに長けた人で、様々な方向からアプローチを行い、常にその実用性を人々に伝えていきました。1902年、ウェック自身は会社を去りましたが、エイックはこの数年の経験をもとにして、自家製保存食品のエキスパートと提携し料理教室を開催、また宗教関連施設や公民館で瓶詰め保存の普及に努めるなど、引き続き企業の成長に力を尽くしたのです。さらにこのビジネス哲学をもとに、暮らしと庭園についての雑誌を95年以上も発行し続けたのでした。

このようにしてエイックは顧客たちの自家製保存食への興味をかき立て、留まる事なく商品デザインや機能性を向上させていきました。また当時のドイツにおいてはいち早くブランドのロゴを作り商標登録を行いました。そのロゴは時代に合わせて数回のリデザインが行われ、今日のいちごのマークとなり、WECK社のシンボルとして使われるようになったのです。

▲ 現在のWECK社のロゴマーク

厳しい時代を乗り越えて

すでにお伝えした通りWECK社が創業したのは1900年のこと。その後世界は大きな戦争を2度経験します。この時期、WECK社もヨーロッパ諸国との貿易が停止し、所有していた3つの工場が財産差し押さえの的となるなど苦難との戦いでした。しかしその困難を乗り越えて終戦後にはドイツのボン近郊の工場で再び製造をスタートさせたのです。今でも当時と変わらない場所で、キャニスターを始めソーダボトルなどの工業用ガラス製品を生み出しています。またWECK社の本社は創業した時と変わらずに、現在もドイツのエーリンゲンを拠点にしています。

スイスとの国境近くエーリンゲにある
WECK本社

本社前の通りはWECK通りと
名付けられています。

WECKキャニスターとの出会い

マークスインターナショナルは世界中から様々な良いアイテムを日本に紹介しています。今から十数年前の事。当時の取扱商品の中にドイツ製のゼリーキャンドルがありました。そのキャンドルのガラス容器に、WECK社のキャニスターが使われていたのです。ある日のこと、他にもキャンドルのガラス容器に色々な形状があるのでは?という興味を抱いたことがきっかけでWECK社のキャニスターと出会うことになりました。最初に20型ほどのサンプルを送ってもらい、様々な店舗やスタイリストに聞き込み調査を開始。緻密なマーケティングを行った末に、キャニスターそのものを取り扱う事が決まったと言います。

ギフトアイテムを中心に展開していた当時のマークスインターナショナルにとって、キッチン用品の取り扱いは初めての試みでした。そこで自分たちの声がしっかりと届き、製品の良さをきちんと分かってくれる店舗に絞り、商品を置いてもらうことに。また菓子研究家と共に販促用のレシピカードを作成し店頭に設置したこともWECKの認知度を向上させました。

WECKの取扱いから5年が過ぎた頃、ブランドの訴求を目的にいちごのロゴを使用した商品開発の話が持ち上がりました。しかしこの申し入れはWECK社にあっさりと拒否されてしまったのです。その後もマークスインターナショナルの地道な努力は続き、口コミの評判とともに少しずつ取り扱い店舗も増加していきました。そして販売開始から10年目を迎えたころ、WECKブランドプロモーションと販売実績が評価され、長年の訴えがようやく実り、WECK社からロゴを使用した商品開発の許可が下りることになりました。いちごのロゴを使用した商品化が世界で初めて認められた瞬間でした。こうしていちごマークは国内にさらに浸透していくこととなったのです。

▲ いちごマークが入ったかわいい商品

最初の10年、今後の10年

努力の甲斐あって取り扱いから十数年が経った今、多くの人たちにその存在が知られるようになりました。今では主婦からプロに至までファンが急増し、レストランやカフェ、デリでも使用されるまでに。しかし最初の10年はその見た目のかわいさから生活雑貨として購入する人がほとんどで、食品保存瓶として実際に使用している人は5%に満たないというのが現状でした。そこで本来の用途である保存瓶としてのWECKを普及させるべく、WECKキャニスターを使った料理本「WECK COOKING」の出版を実現、小冊子WECKマガジンの発行やレシピカードの配布を変わらずに行うなど今後の10年は食品保存の啓蒙に力を注ぎ歩んでいます。

WECKキャニスターを使ったホームキャニングが多くの人に伝わることで、毎日の食生活は変わるかもしれません。今まで知らなかった料理の幅もぐんと増え、あらゆる可能性が広がります。本当に良いものとは美しさと機能性がそなわった形のことを言いますが、WECK社のキャニスターはまさにその“かたち”を代弁している製品です。エイックが築いたビジネス哲学は時代を超え、国境を越えて、人々の食に対する興味をかき立ててくれます。何気ない日々の楽しみ、豊かさを今を生きる私たちに教えてくれているのです。

▲ WECKキャニスターを使った料理本「WECK COOKING」。
ジャムやソース、ピクルスはもちろん煮物や焼き菓子にいたるまで様々なレシピが掲載。
WECKの正しい使い方も分かりやすく紹介されています。

▲ 小冊子WECKマガジン
毎号1人クローズアップするWECKマスターの話やレシピ紹介など盛りだくさんの情報が載っています。

▲ WECKキャニスターを使ったレシピカード。
取り扱い店舗で手に入ります。

2014.02 Journal #07「食品保存瓶のWECKキャニスター物語」

Text:

堀 紋子

北欧ジャーナリスト&コーディネーター

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