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Journal #02

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2013.12 Photography & Text: 加藤 孝司

デュエンデの人気商品のひとつであるティッシュケース『STAND!』は、
発売から8年経ち、いまなおロングセラーを続けている。
移り変わりの激しい時代にあって希有なプロダクトといえるだろう。
発売当初はスタイリッシュな縦置きのティッシュケースとして注目を集めたが、
いまやさまざまな生活のシーンにとけ込み、
ティッシュケースのスタンダードになりつつある。
その開発秘話とデュエンデとの出合いについて、
STAND!をデザインしたプロダクトデザイナーの金山元太氏に話をうかがった。

物質感のないシンプルなティッシュケース

── 縦置きのティッシュケースという、ありそうでなかったデザイン。その開発の背景を教えてください

いまわたしたちが使っているようなティッシュペーパーは日本では1960年代に登場したそうなのですが、90年代に入ってその紙箱の高さの寸法が流通の合理化を理由に、薄くなっていった時代がありました。それが90年代の終わりには5cmまで薄くなりました。それをある日、自分の家で見たときに、これほど薄くなったのなら、立てたらプロポーションも美しく、スペースをとらないのではないかと思いました。それまでは厚さがありましたので、立ててもそれほど省スペースにはなりませんでしたが、紙箱が薄くなったことで、立てることに意味があるのではないかと思ったのです。
それと直方体が立ち上がっている姿が美しいと思いました。例えば、映画「2001年宇宙の旅」のなかに、モノリスという黒い板のような謎の物体が出てきます。それは1対4対9という比率のプロポーションなのですが、薄型のティッシュの箱が立っている姿が、それとオーバーラップして見えたんです。一方、実用的な意味でこれまで横置きでスペースをとっていたものが、立ち上がったらさぞかし省スペースだろうと。審美的なところと実用的なところがデザインを介してリンクしました。


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▲ DUENDE「STAND!」
Photography: Teruaki Kawakami / bean

── それからすぐに開発に着手されたのですか?

ただその発想が出たのはいいのですが、実現できるかどうかという問題もあるわけです。というのも、ティッシュケースからティッシュを引き出すときに、かなりの力がかかります。縦型ですとティッシュを引っ張ったときに倒れてしまう可能性があります。たとえ重い鉄でケースをつくったとしても倒れてしまうかもしれません。
そもそもクライアントから依頼があって開発した製品ではなく、自主開発なので、時間をかけながら、最初は加工がしやすいスチレンボードで試作をしました。まずはティッシュを引っ張っても倒れない重さを検証していくことから始めました。
いろいろ試していくと500グラムくらいで安定することがわかりました。その重量をさまざまな素材にあてはめ計算していくと、スチールやステンレスのような素材でケースをつくれば、ちょうどその重さになることがわかりました。そこで実現可能性が一気に高まったのです。

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── 素材に関しては最初から金属でいこうと?

そうですね。

── 金属の場合、加工が複雑でつくる際のコストの問題はありませんでしたか?

そこなんです。かたちは単純なのですが、実際に金属でつくるとなると溶接箇所が多く、製品にする際にさらに溶接箇所をきれいに研磨しなければならないんですね。技術的な問題で最初は商品化が難航しました。

── 単純に縦型といっても、スカートを履いたような安定感のある、直線的なかたちに特徴がありますが、このかたちに至る背景を教えてください

2004年の秋に行なわれた「TOKYO DESIGNERS WEEK」のコンテナ展に、わたしのデザイン事務所が出展した際に一般にお披露目する機会がありました。その際に出品した試作品が、現在製品化されている形状に近いものです。
それ以前は下半分が直線ではなく、アールがついていたのですが、実際の量産では造りにくいということがわかりました。それにアールですとデザインにくせがあり、飽きやすいのではないかと思いました。
そこでティッシュを引っ張っても倒れないように、前に重心があって、なおかつシンプルな形状を考えて、今まで曲線で結んでいた2点を、素直に直線で結んだらいいだろうと気づきました。立てたときに、プロポーションの上半分と下半分のちょうど真ん中が折り目になっているようにしました。意図的にデザインされていないような、シンプルさを持ったものにしたいと思ったのです。
素材が金属でも表面を白く塗っていますので、遠くから見たときに、紙に見える可能性があると思いました。ですが、わたしはそれでもいいと思いました。
目指したのは、凝ったデザインも物質感もないシンプルなものでした。既成のティッシュの紙箱が変形して、立ち上がったように見えても良いと思ったんです。そういうシンプルなものが、これからの暮らしには必要なんじゃないかと。
その展示会で、マークス・インターナショナルのバイヤーである西場さんが『STAND!』を目にし、自社の商品として販売したいと熱く語っていただいたのが、製品化のきっかけです。

美しい日用品をデザインすること

── その後、金属にくわえABS樹脂製のSTAND!が発売になりましたが、その経緯を教えてください

STAND!を、より普及させていこうということを目的として商品化が進みました。また素材面においても金属製のSTAND!はハンドメイドに近い製法でつくられますので、品質的に不適合な製品となってしまうものが少なからず出来てしまうとのことでした。そこで品質が安定しやすく、コスト的にも安価に仕上がるABS樹脂(プラスチック)の成形でつくるのはどうかというお話をいただきました。
ただプラスチックは金属に比べて当然ながら素材が軽い。そのため企画段階では重りをどの場所にどのように付けようかということを考えていました。ですが、せっかく普及版をつくろうとしているのに、重りをつけてしまうと余計なコストが上がってしまいますし、材料の収縮による凹凸が表面に出てしまうデメリットもあります。これは専門的な話になってしまうのですが、通常のABS樹脂の材料に、表面にツヤをだす効果もあり、比重も重い材料を20~30%ほど混ぜて原料として、それを本体も3mmの厚さにして製作すれば、製品の重量もちょうどよい重さになることがわかりました。おかげで重りは不要になりました。

── 日常的に使うティッシュに対して、造形的な美しさ、省スペースというお話がありましたが、毎日目にするものだから、それを美しくしたいという思いが強かったのでしょうか?生活必需品である「ティッシュ」というものに対して、そもそも金山さんはどのようにお考えでしたか?

これまでも日常の生活の場におけるプロダクトデザインはどうあるべきか、という課題で活動をしてきました。それが実は一番難しいし、やりがいのあることだと思っています。ティッシュボックスはその最たるものだと思うのですが、たとえば生活感がどうしても出てしまいますよね。でも、そのようなものこそ洗練させて、よりイメージを良くしていくことにデザイナーとしてのやりがいを感じます。
これはつね日ごろ考えていることなのですが、華やかな美術館や展覧会で飾られるようなものではなく、家の中に当たり前にある、実用的なものが美しかったら一番いいだろうと思っているんですね。

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── それと、先ほど紙みたいというお話がありましたが、STAND! を良く見ると、日本人には馴染みの深い折り紙のようなかたちでもありますね。省スペースもそうですが、それって実は、狭いスペースを楽しく暮らしたいという、昔から日本人が遊び心を込めて考えと通じるように思いました。日本人って狭いスペースを工夫して上手に使うことに長けていると思うんです。STAND! 自体が、そんな日本人の感性に近いところから生まれている、それが10年近くに渡り、この製品が愛され続けている理由のひとつかなと思いました。

そうですね。日本古来のプロダクトは風呂敷や、着物もそうですが、折りたためるものが多いと思うんです。二次元が三次元化するというのは、次元が変わるわけです。わたしはそれをトポロジカル的(位相的)に考えていて、そういったところに日本人は美意識を感じる国民なのかなと思いました。
例えば、屏風なんかもそうですが、開くととても華やかな空間ができるのですが、それをしまうと平面に、ある意味ゼロになってしまう。もちろん便利というところから来ているのですが、その二次元から三次元の行き来、というのが日本人の宇宙観や美意識の根幹にあるのかなと想像します。

── 金山さんがデザインをする際に心がけていることはどのようなことですか?

そういった意味では、ティッシュボックスは日本人にとっての生活必需品として、暮らしの真ん中にあるはずなのに、例えばインテリア雑誌の部屋取材の際には、視界の外に外されてしまうことが多いんですね。ですが、いくつかのインテリア紹介の雑誌やテレビでSTAND! が堂々と部屋の中にあるシーンを見たことがあります。
デザインで日常の暮らしをいかに美しく豊かにできるか。それもデザイナーの大切な役割のひとつだと思い日々研鑽しているつもりです。

── 実際にSTAND!を生活で使っているシーンを目にする機会はありますか?どのように使われているか気になりますか?

もちろん気になります。STAND! を使っていただいているシーンでよく見るのが、壁を背に立っているシーンです。するとコンパクトですので壁にとけ込んでいて、壁からティッシュが出ているようにみえることがあります。普段の暮らしに目立たずとけ込んでいるのをみると嬉しくなります。

── STAND! が製品化されて8年経ちますがいかがですか?

基本的なデザインは変えていないのですが、最初は金属からはじめてプラスチック、そして木製に展開されたように、素材や色のバリエーションを増やしたり、さらに使い勝手がよくなるようにインナーケースを製品に付属したり、時代の変化に対応してきました。生活のシーンの変化に合わせて買い足してくださるリピーターの方が多く、とてもありがたく思っています。これからもみなさんに『STAND!』が長く愛され使い続けていただければ、嬉しく思います。

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Photography: Teruaki Kawakami / bean

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金山 元太

プロダクトデザイナー。桑沢デザイン研究所卒業後、喜多俊之氏に師事したのち独立。2004年に金山千恵と共に株式会社genta design設立。「STAND!」で 2006年グッドデザイン賞受賞
http://www.gentadesign.com/

2013.12 Journal #02「ティッシュケースの新しいスタンダード」

Photography & Text:

加藤 孝司

ジャーナリスト

http://form-design.jugem.jp/

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